あるむふぁっきら

福岡の大学生による雑記帳。

1話読むごとに感情が揺さぶられる名作『カレル・チャペック短編集』

 約2000年前、扇動の罪で告訴された一人の男がローマ帝国地方総督の前に立ち尋問を受けていた。しばらくのやりとりの後、総督は男に問うた。「真理とは何か」と。

カレル・チャペック短編集

ピラトの信条

 お気づきの方も多いはずですが、このページの最初に登場する総督の名はポントゥス・ピラト、男の名はイエスです。新約聖書によると、イエスは当時のユダヤ教指導者層による不正を暴露したために彼らに恨まれ、「ローマに対して反乱を起こそうとしている」として逮捕されます。ただし当時のユダヤ人たちは自分たちで刑事上の裁判をする権利を持っていなかったので、イエスの身柄はユダヤ総督ピラトのもとに送られることになりました。

 ピラトの尋問に対してイエスは難解な答え方をし、「自分は真理のためにやってきた」と述べます。そこでピラトは「真理とは何か」と問います。そしてイエスの答えを聞かずに席を立ちます。

 ピラトはイエスが大した罪を犯していないと分かったので適当に鞭打ちをして釈放しようとします。しかしユダヤ教指導者層に焚きつけられた民衆が死刑を求めたためこれに屈し、結局はイエスを処刑することになります。

 『カレル・チャペック短編集』の冒頭に載せられている短編小説「ピラトの信条」はこれらのことの後、イエスの弟子であった有力者、アリマタヤのヨセフがピラトのもとにイエスの遺体を引き取りに来た場面から始まります。ピラトはユダヤ人の宗教的不寛容さを嘆きつつ、真実とは何かについてヨセフと議論します。

 「唯一の真実」は存在するのか。ピラトが熱烈に抱いている信条とは何なのか。たったの7ページに深い思考が詰まった名作です。

 その他、長い時間をかけて結ばれる男女の姿を描いた『二度のキスのあいだに』、夫殺しの女を陪審員として裁くことになった男性の葛藤を描いた『陪審員』、“あったかもしれない人生”に想いを馳せ過去の過ちを告白する老人が登場する『切手コレクション』など、読み終えるたびに感情を揺り動かされるような作品が収められています。

 読書の秋に『カレル・チャペック短編集』を読んでみませんか?

関係するかもしれない記事

space-tiger.hateblo.jp
space-tiger.hateblo.jp